なぜ「冬場の塩ビ管接着」は失敗するのか?水漏れを防ぐ「保持時間」と「理屈」の話

冬場の配管接着作業の様子

「水圧テストの瞬間が、一番心臓に悪い」
「完璧に繋いだはずなのに、数日後に『継手から水が滲んできた』とクレームが来た」

配管工にとって、接着不良による水漏れは悪夢です。
特に気温が下がる「冬場の配管」では、ベテランでも思わぬ失敗をすることがあります。

なぜ、冬場の接着は失敗しやすいのか?
なぜ、指で押さえておかないとパイプは勝手に抜けてくるのか?
今回は、感覚で語られがちな「接着」の世界を、「テーパー」と「溶解」という科学的な理屈で解説します。

そもそも「接着」ではない。「溶接」である

まず、意識を変えるべき点があります。
私たちが普段使っている塩ビ管用接着剤。あれは、木工用ボンドのように「糊(のり)でくっつけている」わけではありません。

正しくは「冷間溶接」に近い原理です。
接着剤に含まれる溶剤が、塩ビ管の表面をドロドロに「溶かし」、パイプと継手が一体化して固まるのです。

なぜパイプは勝手に「戻って」くるのか?

接着剤を塗って継手に差し込んだ後、手を離すと「ヌルッ」とパイプが押し戻されてきた経験はありませんか?
これが水漏れの原因のNo.1ですが、なぜ戻ってくるのでしょうか。

犯人は「テーパー(勾配)」

実は、継手(TS継手)の穴は、奥に行けば行くほど狭くなる「すり鉢状(テーパー)」になっています。
まっすぐに見えて、実は入り口よりも奥の方が狭いのです。

🔄 戻りのメカニズム
  1. 奥に行くほど狭いので、パイプを差し込むと「締め付けられる力(反発力)」が働く。
  2. そこに接着剤を塗ると、接着剤が「潤滑油(ローション)」の役割を果たし、ツルツル滑るようになる。
  3. その結果、締め付けの反発力に負けて、ヌルッと外へ押し出される。

つまり、「戻ってくる」ということは、しっかり奥まで入って効いている証拠でもあります。

なぜ「冬場」は失敗するのか?

ここからが本題です。
夏場は数秒押さえれば止まるのに、冬場はいつまで経っても戻ってくる。この違いは「溶剤の蒸発スピード」にあります。

冬の接着剤は、いつまでも「潤滑油」のまま

夏場は暑いので、差し込んだ瞬間に溶剤が揮発(蒸発)し、すぐにカチッと固まり始めます。
しかし、冬場は気温が低いため、溶剤がなかなか蒸発しません。

継手の中で、接着剤が長い時間「ヌルヌルの潤滑油」の状態をキープしてしまいます。
その結果、いつ手を離してもテーパーの反発力で戻ってきてしまい、「接着したつもりでも、実は数ミリ抜けていた(=接着面積不足)」という事故が起きるのです。

解決策:「保持時間」を感覚で決めない

では、具体的にどうすればいいのでしょうか。
メーカー(クボタシーアイやセキスイなど)が推奨している「保持時間(力を入れて押さえ続ける時間)」の目安は以下の通りです。

呼び径 夏場(目安) 冬場(目安)
50mm以下 30秒以上 1分以上
65〜150mm 1分以上 2分以上

冬場、小口径(13Aや20A)であっても、「最低でも1分」は全力で押さえ続ける必要があります。
「もういいかな?」と思って手を緩めた瞬間、目に見えないレベルでジワッと戻っていることがあります。

まとめ:見えない部分にこそ技術が宿る

配管の接着は、一度繋いでしまえば、中がどうなっているか誰にも見えません。
しかし、数年後に水漏れするかどうかを決めるのは、その見えない部分での「保持時間」「確実な挿入」です。

「冬場は戻りやすい」。この理屈を知っているだけで、現場での意識は変わります。
SUMITSUBO AIは、こうした現場の基礎知識から最新のDX技術まで、建設業の「質」を高める情報を発信し続けます。

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