排水管の「ボコボコ音」は破封のサイン。通気管の正解を現場で整理する
引き渡しから数週間が経ったある日、施主から電話が入った。「水を流すと、ゴボゴボと変な音がします。それと、洗面所がなんか臭くて」。パイプ洗浄剤を試したが直らない、という。配管詰まりではなく、「空気不足」が原因だと気づいたのは、現場を見てからだった。音と臭いの両方が出ているとき、まずトラップの状態を疑うべきだ、という話をこれからする。
ボコボコ音の正体は、空気を吸うトラップの暴れ
排水管の中を水が流れるとき、水だけが動いているわけではない。水と一緒に大量の空気も移動する。気密性の高い住宅では、この空気が逃げにくくなる。逃げ場を失った空気が引き起こすのが、いわゆる「誘導サイホン現象」だ。
上の階でトイレを流した瞬間、縦管の中を水の塊が落下する。その直後、注射器を引いたときと同じように、水の塊の後ろ側が負圧になる。この負圧が、下の階のトラップにたまっている水(封水)をストローのように吸い上げる。音の正体は、空気を吸い込もうとして封水が暴れている状態だ。
そして封水が吸い出されてしまうと、トラップが空になる。下水管と室内が直結した状態になるため、悪臭が上がってくる。クレームの電話越しに「掃除しているのに臭い」という言葉が出るときは、たいていこの状態だ。これが破封(はふう)と呼ばれる現象の正体である。
- 封水の深さ
- 一般的なトラップで50〜100mm。これが失われると下水と室内が直結する。
- 誘導サイホン現象
- 縦管内を落下する水塊が、後続の管内に負圧を発生させ、トラップの封水を吸引する現象。
- 通気管の役割
- 配管内に外気を供給し、負圧・正圧の発生を抑えてトラップの封水を守る。
- 通気弁の代表例
- ドルゴ通気弁(吸気専用)。排気はできないため設置位置の検討が必要。
通気管の設置位置に「正解の場所」がある
破封を防ぐには、配管に「息継ぎ」をさせるしかない。外気を供給して、負圧が発生する前に圧力を均衡させるのが通気管の役割だ。ただし、どこに入れてもいいわけではない。位置を間違えると、通気管を施工したのに破封が直らない、という事態が起きる。
基本的な鉄則は、トラップから1.5m以内、かつ水が縦管へ落ちる前の区間に通気の分岐を設けることだ。水が加速して負圧が発生する「前」に空気を補給しなければ意味がない。器具排水管から分岐して通気立管へつなぐのが教科書的な正解だが、改修工事で通気立管を新設できない場合は、吸気専用の通気弁(ドルゴなど)を用いる方法もある。
- ドルゴ等の吸気専用弁は、正圧(はね出し)には対応しない
- 設置場所は封水より上方に限る。水没する位置につけても機能しない
- メンテナンスが必要なため、点検できる場所に設置する
1階や最下流で起きる「はね出し」も見落とさない
負圧と逆のケースも現場では起きる。マンションの1階付近で、便器や排水口から「ボコッ」と水や泡が噴き出すことがある。上から落下してきた大量の排水が縦管の底部に溜まり、逃げ場をなくした空気が正圧となって押し返される現象だ。この場合、吸気弁を増やしても解決しない。
必要なのは、縦管の最下部付近に「逃し通気(最下階通気)」を設けることだ。圧縮された空気を外に逃がすルートを作ってやることで、正圧による吹き出しを抑えられる。負圧には吸気、正圧には排気、という使い分けが通気設計の基本だが、現場ではどちらか一方しか対策しないケースが意外と多い。
- 負圧・正圧の両方に対応できる
- 複数器具がある場合でも安定して機能する
- メンテナンスが少なく長期的に信頼できる
- 改修工事では管路を新設するスペースが必要
- 初期コストが通気弁より高くなる
- 建物構造によっては施工が難しい場合がある
「勾配は取れている」は通気の言い訳にならない
現場で長く仕事をしていると、「勾配1/100は確保した」という言葉を免罪符にしている場面に出くわすことがある。勾配が正しくても、空気の流れを無視した配管は破封を起こす。水がスムーズに流れることと、空気がスムーズに流れることは、別の問題だ。
「水の設計はできている。では空気はどうか」この問いを忘れたとき、クレームが来る。
施工後にボコボコ音が出た場合、まず確認するのはトラップの封水が残っているかどうかだ。器具を取り外して封水部を目視するか、水を足してみて臭いが止まるか試してみる。臭いが一時的に消えるなら、封水の補給で改善しているということで破封の可能性が高い。根本的に直すには、通気の経路を見直すことになる。
- 複数の器具で同時にボコボコ音が出ている
- 特定の階だけ臭いが強い(上階の使用時に症状が出る)
- 換気扇を回すと臭いが増す(室内が負圧になりやすい高気密住宅に多い)
まとめ:水と空気を、セットで設計する
排水管から「ボコボコ音」が聞こえたら、それは配管が空気を求めているサインだ。汚れでも詰まりでもなく、空気の経路が設計から抜けている可能性が高い。破封は、トラップという「においの蓋」が失われた状態であり、放置すれば下水ガスが室内に充満し続ける。
通気管の位置はトラップから1.5m以内、縦管への落下より手前。負圧には吸気弁または通気立管、正圧には逃し通気、という使い分けを頭に入れておけば、現場での判断が速くなる。設計段階で空気の流れを意識することが、引き渡し後のクレームを防ぐ最も確実な手段だ。