MD継手は「全力で締める」と割れます。トルクレンチがない時の「手感覚」の正解
「排水のMD継手、水漏れが怖いから親の仇(かたき)のように締め上げている」
「締めすぎてフランジが『パキン』と割れる音がトラウマだ」
設備屋の新人にとって、MD継手(排水鋼管用可とう継手)の締め付け加減は、最初の鬼門です。
緩ければ漏れる。締めすぎれば割れる。
本来はトルクレンチを使うのが正解ですが、狭いピット内や改修現場では使えないことも多々あります。
今回は、トルクレンチがない時でも失敗しない、「締めすぎないための理屈」と「目視確認のポイント」を論理的に解説します。
なぜMD継手は「締めすぎ」で漏れるのか?
「強く締めれば締めるほど、水は止まるはずだ」
これは大きな勘違いです。MD継手に限っては、締めすぎこそが漏水(および破損)の最大原因になります。
MD継手の本体は「鋳鉄(ちゅうてつ)」でできています。鉄といっても、粘りのある鋼(はがね)とは全く性質が異なります。
MD継手の素材である鋳鉄は、硬いですが非常に「脆い(もろい)」素材です。
イメージとしては「硬いガラス」に近いと考えてください。
粘り気のある鉄なら、締めすぎてもグニャリと曲がって耐えてくれます。
しかし、ガラスに強い力をかけるとどうなりますか? 曲がらずに一瞬で「パリン」と割れますよね。
MD継手のフランジも同じです。許容量を超えた力で締め込むと、変形できずに亀裂が入ってしまうのです。
トルクレンチがない時の「手感覚」の正解
メーカー推奨の締め付けトルクは、口径にもよりますが概ね「20〜25N・m(ニュートンメートル)」程度です。
では、これを現場の「手感覚」に翻訳するとどうなるでしょうか。
1. 片手で「グッ」で十分
250mm〜300mm程度の一般的なモンキーレンチを使う場合、ボルトが着座してから「片手で持って、グッと力を込めて止まる程度」が目安です。
両手で体重をかけたり、足で踏んで締めるのは完全にオーバートルクです。
2. 「メタルタッチ」させてはいけない
ここが一番の判断基準です。締め込んだ後、フランジ(金具)同士がくっついていませんか?
⚠️ 「隙間」があるのが正解です
MD継手は、中のゴムパッキンを適度に潰して止水する構造です。
正しく締め付けられていれば、フランジとフランジの間には数ミリの隙間が残ります。
不安になってフランジ同士が接触する(メタルタッチ)まで締め込む人がいますが、それは「ゴムを殺している」のと同じです。
ゴムの逃げ場がなくなり、弾力性が失われ、逆に漏水の原因になります。
「鉄の力」で止めるのではなく、「ゴムの弾力」で止める。
この理屈さえ理解していれば、恐る恐る締める必要も、力任せに締める必要もなくなります。
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