新築引き渡し後の「下水臭い」クレームは通気弁の位置と締め忘れが原因だった
引き渡しから3日後、施主から電話が入った。「洗面所がずっと下水臭いんですが、これって欠陥じゃないですか」。受話器を持つ手に力が入った瞬間、私の頭の中では設備図面が素早く展開されていた。封水は確認した。接続部にも漏れはない。それでも臭う。こういう時に疑うべき箇所は、意外にも見落とされやすい場所にある。
封水が消える仕組みを押さえておく
排水管の中で何が起きているかを理解しておかないと、同じミスを繰り返す。トラップに溜まった封水は、下水臭を室内に侵入させないための水の栓だ。この水が失われた時、初めて臭いが上がってくる。
問題は、封水は「使わなかったから蒸発した」ケースだけではないという点にある。複数の器具を同時に使用した時など、排水管の内部が瞬間的に負圧になることがある。空気の逃げ道がない状態で水が勢いよく流れると、トラップの封水ごと引き込まれてしまう。これを誘導サイホン作用と呼ぶ。
通気弁はこの負圧を解消するために、外気を管内に取り込む役割を持つ。弁が正常に機能していれば封水は守られる。逆に言えば、弁が一つでも正しく動いていなければ、どれだけ丁寧に配管しても臭いの問題は起きる。
「密閉空間」への設置という見落とし
クレーム現場を確認しに行くと、通気弁が天井裏の点検口内、しかも気密性の高い収納スペースの奥に設置されていることがある。取り付け自体は正しい。しかし、その場所が問題だ。
通気弁は周囲の空気を吸い込んで管内に送る装置だ。設置空間そのものが密閉されていると、吸い込む空気がなくなり弁が開かなくなる。結果として、部品は存在しているのに機能していないという状況が生まれる。
天井裏に設置する場合は、必ず換気口(ガラリ)を設けるか、空気の動きがある小屋裏スペースを選ぶ必要がある。図面上で通気弁の位置が確定したら、その空間が外気と連通しているかどうかを必ず確認する習慣をつけたい。
- 天井裏・点検口内に設置する場合、換気口(ガラリ)が設けられているか
- 気密性の高い収納内部への単独設置になっていないか
- 弁の吸気口が壁面や断熱材で塞がれていないか
保護カバーの取り忘れと「開放ロック」の失念
嘘のような話だが、これも繰り返し起きる。工事中のゴミや粉塵が弁内部に入らないよう、製品には保護シールや発泡スチロール製のキャップが付属している。これを付けたまま引き渡してしまうケースだ。
外観では弁が設置されているように見える。しかし弁は完全に塞がれており、空気を取り込む穴がない。点検口を開けて目視するだけでは分からないこともあり、実際に手で触って確認するしかない。
もう一つ、製品によっては施工後に弁本体を少し回して「開放ロック」の状態にしなければ機能しないタイプがある。取り付け作業を終えた段階で満足してしまい、最後の操作を忘れるという見落としだ。施工後の動作確認を手順として明文化していないと、担当者が変わるたびに同じミスが出る。
- 保護シール・発泡スチロールキャップをすべて取り外したか
- 製品仕様に応じた「開放ロック」操作を行ったか
- 手で弁を軽く押して、スムーズに動くことを確認したか
設置高さの基準は見逃されやすい
通気弁の設置位置には高さの基準がある。衛生器具の「あふれ縁」、つまり水が溢れ始める高さよりも上に設置しなければならない。これは排水が詰まった時に通気弁から汚水が逆流するリスクを防ぐためだ。
低い位置に設置しても、普段の使用では問題が出ないことがある。そのため見過ごされやすいが、詰まりや排水不良が重なった時に初めてトラブルとして表れる。図面段階で高さを確認し、器具のあふれ縁位置と通気弁の取付高さを並べて記録しておくのが確実だ。
なお、あふれ縁の高さは器具ごとに異なる。洗面台と浴槽では基準点が変わるため、複数の器具がある場所では個別に確認する必要がある。この手間を省いた結果として後から対応することになると、内装を一部撤去しての手直しになりかねない。
クレームを防ぐための確認は施工中にしかできない
通気弁に関するトラブルの特徴は、引き渡し後しばらくしてから発覚する点にある。入居直後は封水が残っているため臭いが出ない。しばらく使い続けて封水が引き込まれ始めた頃に、初めてクレームになる。そのため「施工直後の検査では問題がなかった」という言い訳が通りにくい。
設置場所の密閉状態、保護カバーの取り外し、開放ロックの確認、あふれ縁との高さ関係。これら4点を施工完了時のチェックリストに組み込んでおけば、今回のようなクレームの大半は引き渡し前に気づける。問題は技術者の知識ではなく、確認が手順として定着しているかどうかだ。