水道屋が閑散期を埋める「二刀流」。空調と高圧洗浄で年収を平滑化する
ある2月の夕方、給湯器交換の帰り道に同業の先輩から電話が来た。「今月だけで200万超えたよ」と笑う声の裏に、「5月どうしようかな」という小さなため息が混じっていた。水道屋の仕事には明確な波がある。寒波が来れば電話は鳴りやまず、桜が散ると嘘のように静まり返る。問題は腕の良し悪しではなく、仕事の構造そのものにある。
- 繁忙期(水道)
- 11月〜2月。凍結修理・給湯器交換が集中し、断るほど依頼が来る時期。
- 閑散期(水道)
- 4月〜8月。新築・リフォームの配管工事は散発的で、売上が半減以下になる月もある。
- 資格の目安
- エアコン工事参入には「第二種電気工事士」が必要。試験は年2回実施。
冬の稼ぎが「幻」に変わる構造
3月になると通帳の残高が跳ね上がる。年度末の公共工事と冬の修繕が重なり、ひとりで月に200万近く売り上げることも珍しくない。だがこの数字を「実力」と混同するのが最初の落とし穴だ。水道屋の売上は、冬の緊急呼び出し分が春夏の空白を補填する形で成り立っている。つまり、1月の200万円は4月・5月の分まで含めた「前払い」に近い。
ここで車を買い替えたり、設備を一括購入したりすると、6月に資金が底をつく。私が現場で見てきた「腕はあるのに2年で廃業した設備屋」の多くが、このパターンを踏んでいた。「水道屋の売上は年俸制」と意識して、冬の貯金を夏の固定費に充てる設計を先に組んでおかないと、技術力は経営の安定につながらない。
繁忙期が真逆になる仕事を一つ持つ
水道屋と相性が良く、かつ繁忙期がほぼ真逆なのがエアコン工事(空調)だ。エアコンの需要は6月から8月に集中し、水道の閑散期とぴったり重なる。配管の取り回し、コア抜き、狭所での作業——必要なスキルの大半はすでに持っている。
追加で必要なのは「第二種電気工事士」の資格と、フレア加工・真空引きの練習だけだ。フレアツールとトルクレンチの扱いに慣れるまでに、実地で10台ほどこなせばひとりで仕上げられる水準に達する。工具一式の初期投資は15万〜20万円が目安で、夏場に月30台こなせれば半年以内に回収できる計算になる。
- 6〜8月の閑散期を繁忙期に変えられる
- 既存の配管スキルがそのまま活きる
- 1台あたりの工賃が比較的安定している
- 第二種電気工事士の取得に半年〜1年かかる
- 冷媒ガスの取り扱い(フロン排出抑制法)で別途届出が必要
- 夏の繁忙期は競合も増えるため、単価競争に巻き込まれやすい
「壊れてから呼ばれる」を「壊れる前に提案する」に変える
エアコン工事と並んで閑散期に効くのが、高圧洗浄(排水管清掃)の定期提案だ。冬の修繕で訪問した家の玄関を出る前に、「春になったら排水管の洗浄をしませんか、詰まる前のほうが安く済みますよ」と一言添えてチラシを渡す。これだけで、4月以降のスケジュールに自分でコントロールできる仕事を入れられる。
緊急修繕は「呼ばれた時間」に動かなければならないが、洗浄の予約は「自分の都合の良い時間」に組める。売上の単価は1件2万〜5万円と控えめでも、1日3〜4件こなせるルート設計ができれば、月に50万円前後の安定した柱になる。重要なのは、この仕事は待っていても来ないという点だ。冬の訪問時に種をまいておくことが、春の予約につながる唯一の経路と言っていい。
- 「今すぐやりますよ」と即日を勧めると怪しまれる——「春に予約」という間を置く提案が信頼を生む
- 築年数が古い塩ビ管に高圧をかけすぎると継手が緩む——事前に管種と状態を確認する
二刀流を機能させる「時間軸の設計」
エアコン工事も高圧洗浄も、「興味はあるけど、忙しくて動けなかった」という声を現場でよく聞く。動き出しのタイミングは、実は水道の繁忙期が終わった2月か3月がちょうどいい。資格の勉強を始めるにも、洗浄のルートを組み立てるにも、頭と手が空く時期がまとまった準備の唯一の窓になる。
「稼いでいる時に次の仕込みをする」という感覚は、水道の仕事だけをしていると身につきにくい。しかし二刀流を一度回してみると、カレンダーを自分で設計する感覚がつかめてくる。閑散期に焦って動くのではなく、繁忙期の終わり際に次の仕事の種をまいておく。この順番を逆にするだけで、5月の不安はかなり小さくなる。
まとめ:カレンダーは自分で設計できる
「水道一筋」という職人気質は誇りであっていい。ただし、事業の安定は気質ではなく設計で決まる。エアコン工事の資格を取り、高圧洗浄の予約を冬の訪問時に入れておく。この二つを組み合わせるだけで、閑散期の売上の空白はかなり埋められる。
大切なのは順番だ。仕事がない5月に焦って動いても、その月の予約は増えない。仕事が来ている2月に、次の季節の種をまく。その習慣が、年間を通じて安定して稼ぐ構造を少しずつ作っていく。