施工管理の雑務をAIが消す日。現場監督は「決断する人」に戻れる
事務所のソファで仮眠を取りながら、翌朝の施工図を確認する。それを「現場監督らしさ」と呼ぶ人がいる。私はずっと、その感覚が腑に落ちなかった。写真を整理し、日報を清書し、元請けへの報告書を夜中に仕上げる。それは本当に、地図に残る構造物を指揮する仕事のはずの時間だろうか。この問いが、私を「リアルバリュー」という場に向かわせた。
事務所で寝るのが「普通」という感覚
建設業界で働いていると、異常な状況が当たり前に見えてくる瞬間がある。入社して数年の若手が、現場での判断よりも書類処理のスピードを先に覚えさせられる。優秀な現場監督ほど、処理できる書類量で評価される。これは効率化の問題ではなく、職種の本質が入れ替わってしまっている状態だ。
私が危機感を感じたのは、その状況に慣れた人が「これが現場だ」と言い始めたときだった。慣れと納得は違う。長時間労働を誇りと勘違いした瞬間に、業界は次世代の入り口を自分で塞いでいる。それがわかっていても、巨大な慣習の壁に対してどこから手をつければいいのかが、正直見えていなかった。
リアルバリューで「種」が「芯」に変わった
リアルバリューは、経営者たちが自分のビジネスの本質と向き合う場だった。「社会に何を残すのか」という問いを、言葉に逃げずに答え続ける時間が続いた。私はその場で、建設現場の現状を話した。施工管理者が書類作成マシーンになっている現実、若者が憧れを持てない業界になりつつある現実を。
複数の経営者と議論を重ねる中で、私の中でひとつの言葉が固まった。
「施工管理の激務をなくすことは、単なる効率化ではない。日本のモノづくりを支える人間の尊厳を守ることだ」
大げさに聞こえるかもしれない。しかし、この線引きが明確になったことで、私が何を作るべきかも明確になった。AIが代替できる仕事と、人間が担い続けるべき仕事を分けること。それが出発点だと確認できた。
人間の仕事とAIの仕事を分ける
現場監督の仕事を分解すると、大きく二種類に分かれる。ひとつは、状況を読んで判断し、職人や発注者と対話し、リスクを予測して手を打つ仕事。もうひとつは、完了した作業を記録し、写真を整理し、数字を集計して報告書に落とし込む仕事だ。
- 音声入力をもとにした施工記録の自動生成
- 写真の分類・整理・報告書への自動反映
- 日報・工程表など定型書類の下書き作成
- 職人との信頼関係を築く対話と判断
- 現場の空気を読んだ安全管理の意思決定
- 予期しないトラブルへの臨機応変な対応
この分け方は単純に見えるが、実際の現場で線引きを実装しようとすると難しい。たとえば、「3階スラブ配筋完了、明日は10時からコンクリ」という現場の独り言をそのままAIが受け取り、工程表の更新と関係者への連絡下書きまでつなげる。それだけでも、1日の中で積み重なる時間は小さくない。
落とし穴は「使いこなせる現場」を選ばないこと
ここで正直に言っておきたいことがある。AIツールを現場に導入するとき、最もよく起きる失敗は「全員が使えると思って展開すること」だ。デジタル端末の操作に慣れていない職人や高齢の現場監督にとって、新しいツールの学習コストは決して小さくない。
最初は「1人が使う」から始めるのが、結果的に現場全体に広がる近道だ。音声で記録を残すことに慣れた一人が、書類作成にかかる時間を可視化して見せる。それを見た周囲が自然に興味を持つ。強制的な全体導入は、ツール嫌いを量産するだけで終わることが多い。この順序を間違えると、どれだけ優れたシステムでも現場には根付かない。
- 「全員一斉スタート」は現場の反発を生みやすい
- 入力の手間が記録の手間を上回ると誰も使わなくなる
- 操作を覚える時間を業務時間内に確保しないと定着しない
現場監督が「決断する人」に戻るために
リアルバリューを経て、私の中で確信に変わったことがある。建設業界の働き方は、外から変えることができない。現場を知る人間が、現場の言葉で動くツールを作り続けることでしか変わらない。
「スマートでかっこいい現場監督」が当たり前になる景色を、私は本気で描いている。若者が「施工管理はブラックだから」と敬遠するのではなく、「あの仕事は面白そうだ」と思って入ってくる業界に変えること。そのためには、雑務という名の時間泥棒をAIに渡すことが、最初の一歩になる。
現場監督の仕事は、本来「決断すること」のはずだ。その本来の姿に戻すために、私たちが作るものの基準はひとつしかない。「現場監督の時間を1秒でも奪う機能は、機能ではない」。この基準を、これからも変えるつもりはない。