打設前日にスリーブのズレ発覚。鉄筋を切らずに修正する判断基準
「墨出しの位置と、設置したボイド管が50mmずれている」。打設前日の自主検査でこの事実に気づいたとき、頭が真っ白になる感覚は、何年現場を踏んでいても変わらない。図面変更の見落としか、単純な墨出しミスか、原因を探る前に手が震える。ただ、コンクリートを流す前なら修正は必ずできる。問題は、焦りが「やってはいけない直し方」を招くことだ。
まず確認すること。鉄筋が当たるかどうか
スリーブを正しい位置に動かそうとしたとき、そこに鉄筋があるかどうかが、この後の作業の難易度をすべて決める。配筋図と現物を見比べて、移動先の空間を確認するのが最初の一手だ。ここを慌てて飛ばすと、動かした先でまた詰まるという最悪の展開になる。
鉄筋がない場合は、作業としてはシンプルだ。結束線を切り、ボイド管を正しい位置に移動して固定し直す。ただし、元の位置で型枠に開けた固定釘穴をガムテープや木片で塞ぐのを忘れがちなので注意したい。そこからモルタルが噴き出して、型枠面が荒れる原因になる。
鉄筋が当たる場合、選択肢はいくつかあるが、それ以前に絶対にやってはいけない対処が二つある。無断での鉄筋切断と、バーナーによる加熱曲げだ。どちらも昔の現場では見かけた方法だが、建物の強度に直結する重大な欠陥を生む。
- 無断で鉄筋を切断する(後で構造検査・コア抜き直しの原因になる)
- バーナーで鉄筋を炙って曲げる(加熱した鉄筋は強度が著しく低下する)
鉄筋に当たるときの対処。スリーブ径と鉄筋の種類で判断する
干渉している鉄筋が何かによって、現場でとれる選択肢は変わってくる。スリーブ径が100φ程度以下で、当たっているのが配力筋(サブの鉄筋)であれば、構造設計者の許可を得たうえで鉄筋をわずかに押し広げる対応が可能な場合がある。ただしこれは「構造担当が認めた場合に限る」という条件付きだ。現場の職長判断でやってしまうと、後で是正指示が来たときの責任の所在が曖昧になる。
梁の主筋や、径の大きなスリーブが主要な鉄筋にしっかり干渉している場合は、話が別だ。この場合は開口補強筋で対応するしかない。スリーブ周囲に斜め筋や補強筋を追加で配置し、切断・移動した鉄筋が担っていた力を代替させる方法だ。
ここで必ず守ってほしいのが、「構造担当の指示を仰いでから動く」という順番だ。補強の方法・鉄筋径・本数はケースバイケースで、現場の経験則で代用できるものではない。勝手に切って後からレントゲン検査でバレたとき、やり直しにかかるコストと工期の損失は、修正時間の比ではない。
- 配力筋・小径スリーブ(〜100φ)
- 構造担当の許可のうえで、鉄筋を押し広げて対応できる場合がある
- 主筋・大径スリーブの干渉
- 構造担当の指示に従い、開口補強筋(斜め筋・あばら筋追加)で対応
- 鉄筋が密集してスリーブ自体が入らない
- 箱抜きに切り替え、打設後に後施工で処理する
最終手段としての箱抜き。使いどころと注意点
「位置が決まらない」「配筋が密すぎてボイド管が物理的に入らない」というケースでは、無理にスリーブを押し込もうとするよりも、木枠などで四角く「箱抜き」を入れておく選択肢がある。打設後に木枠を外し、配管を通してから無収縮モルタルで埋め戻す工法だ。
ただし、箱抜きにも落とし穴がある。埋め戻しのタイミングと養生期間を誤ると、モルタルとコンクリートの接合部に隙間が生じ、後から漏水の原因になることがある。防水上の問題が出やすい部位では、止水材を併用するかどうかを事前に監督と確認しておく必要がある。箱抜き自体は有効な手段だが、「なんでも箱抜きにすれば良い」という発想は危険だ。
打設前だからこそ、報告が先になる
スリーブのズレが発覚したとき、現場の空気的に「自分で直してしまおう」と動きたくなる気持ちはよくわかる。しかし、この判断が後になって大きなリスクを生む。コンクリートは一度打ってしまえば、中の状態を確認するのにコア抜きやレントゲン探査が必要になる。その費用と手間を考えれば、打設前に5分かけて監督や構造担当に一報を入れる手間は、圧倒的に安い保険だ。
「独断で修正したこと」と「相談のうえで修正したこと」は、完成品としては同じに見えても、後から問題が出たときの対応がまったく異なる。前者は職人個人が責任を負う形になり、後者は組織で解決できる問題になる。トラブル対応の質は、技術よりも「誰に何を報告したか」の記録で決まる。これは、現場で長く働くほど実感として積み上がってくることだ。
まとめ。打設前のズレは修正できる。ただし手順を守って
スリーブ位置のズレは、打設前であれば必ず対処できる。鉄筋への干渉がなければ結束線を切って移動するだけだ。干渉があれば、スリーブ径と鉄筋の種類で判断し、構造担当に相談してから動く。どうにもならなければ箱抜きという選択肢がある。この三段構えの判断軸さえ持っていれば、焦りに任せた「やってはいけない修正」は防げる。
現場のイレギュラーは、知識があれば選択肢が増え、知識がなければ一か八かの賭けになる。ズレが起きた事実よりも、その後の判断と報告が、現場の信頼をつくる。