ステンレスは「錆びない」わけじゃない。「錆びにくい膜」を張っているだけだという話

ステンレスのもらい錆と不動態被膜のイメージ図

「新品のステンレスシンクの近くで鉄パイプを切っていたら、翌日シンクが真っ赤になっていて監督に激怒された」
「ステンレスの配管なのに、なぜか赤い斑点が出てきた」

現場に出たばかりの人が一度はやらかす失敗。それが「もらい錆(さび)」です。
多くの人が勘違いしていますが、ステンレスは「絶対に錆びない最強の金属」ではありません。

英語で書くと Stain(汚れ・錆)+ less(少ない)
つまり「錆びない」のではなく、「錆びにくいだけ」の金属なのです。
今回は、なぜサンダーの火花一つでステンレスがダメになるのか。その「膜」の化学について解説します。

なぜステンレスは錆びにくいのか?

鉄は放っておくとすぐに酸素と結びついて赤錆になります。
しかし、ステンレスはずっとピカピカです。これは、表面に目に見えない「透明なバリア」を張っているからです。

🛡️ 不動態被膜(ふどうたいひまく)の正体

ステンレスには「クロム」という成分が混ざっています。
このクロムが空気中の酸素と結びつくと、表面に100万分の3ミリという極薄の保護膜を作ります。これを「不動態被膜」と言います。

わかりやすく言えば、「自己修復するカサブタ」のようなものです。
傷がついても、周囲の酸素ですぐに新しい膜が作られるため、中の鉄が守られ続けるのです。

天敵は「サンダーの火花」

この最強のバリアを、一瞬で破壊するものがあります。
それが、高速カッターやサンダーから飛び散る「火花(鉄粉)」です。

火花の実体は、高熱を持った「鉄の粉」です。
これがステンレスの表面(被膜の上)に焼き付くと、以下の恐ろしい連鎖が起きます。

  1. 乗っかった「鉄粉」自体が、空気中の水分で錆びる。
  2. 錆びた鉄粉が、下のステンレスの「不動態被膜」を破壊する。
  3. バリアが破られたステンレス本体まで、連鎖的に錆びが移る。

これが「もらい錆」のメカニズムです。
ステンレスそのものが錆びているのではなく、「他人の病気(鉄の錆)をうつされた」状態なのです。
だからこそ、ステンレスの近くで鉄を切るときは、火花養生が絶対に必要なのです。

「磨き方」を間違えると寿命が縮む

もし錆びてしまった場合、スポンジやタワシで磨いて落とすことになります。
しかし、ここにも罠があります。

⚠️ 「目に逆らって」磨いてはいけない

多くのステンレス製品には、髪の毛のような細かい筋が入っています(ヘアライン仕上げ)。
掃除をする際、この「目(筋)」に逆らってゴシゴシ磨くのはNGです。

目に逆らって磨くと、表面に新たな深い傷がつきます。
その傷の奥に汚れや水分が溜まりやすくなり、そこからまた錆が発生しやすくなるのです。
「木目と同じで、ステンレスの目にも逆らわない」。これを覚えておいてください。

まとめ:金属の「肌」を守る意識を

ステンレスは「硬い金属」に見えますが、実は「繊細な皮膚(被膜)で守られた金属」です。
火花を飛ばさない、酸性の洗剤をかけない、目に逆らって磨かない。

これらはマナーではなく、化学的に「被膜を守る」ための必須行動です。
この理屈を知っているだけで、仕上げの美しさと、数年後の耐久性に大きな差が出ます。

素材を知れば、現場はもっと強くなる。

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