建設一筋40年の男が50代でAIベンチャーを立ち上げた理由
オムツをしていた頃から、親父の背中と職人たちの声を見て育ちました。創業70年の工務店の息子として、私にとって建設現場は生まれた場所そのものでした。その後、大林組に入社し、日本を代表する規模のプロジェクトにも携わりました。誇りはありました。しかし同時に、ずっと消えない違和感もありました。それが何なのか、私は40年かけてようやく言葉にできた気がします。
親父たちの苦労が、報われていなかった
工務店の息子として育ちながら、私は二つの世界を同時に見てきました。現場で汗を流す職人の姿と、その仕事が社会から正当に評価されていない現実です。危険を引き受け、技術を磨き、建物を形にする人間が、なぜこれほど報われないのか。その問いは、大林組に入ってからも私の中で消えませんでした。
大林組での仕事は、スケールの大きさという意味では充実していました。しかし現場を離れた立場から業界全体を見るようになるほど、下請け・職人・中小工務店が置かれた構造的な不利さが、より鮮明に見えてきました。「誇り」と「怒り」は、私の中でいつも隣り合わせにありました。
建設DXという言葉に、一度は希望を持った
ここ数年、「建設DX」という言葉が業界に広まり始めました。最初、私は素直に希望を持ちました。これで現場が楽になる、職人の負担が減る、と。しかし現実は想像と大きく違いました。
現場に降りてきたのは、見た目だけが整った使いにくいツールばかりでした。提案してくる会社の担当者に現場経験はなく、私たちの仕事を「データ」としてしか捉えていない。ヒアリングの言葉は丁寧でも、画面の向こうに現場の匂いはまったくありませんでした。
「現場を知らない人間が、現場を変えようとしている」
その違和感は怒りに変わりました。汗水垂らして働く人間の仕事を、数字と効率だけで語ることへの、純粋な怒りです。ただし、文句を言い続けるだけでは何も変わらない。私はそれを、40年の経験で骨身にしみて知っていました。
- 開発者が現場に入ったことがなく、実際の作業フローを反映していない
- 導入コストは高いが、運用サポートが手薄で現場に定着しない
- ベテラン職人が「覚える気にならない」UI設計になっている
「ないなら、自分が作るしかない」と決めた日
職人がいなくなり、技術が途絶え、建物が建たなくなる。その未来は、業界の内側にいれば数字を見なくてもわかります。2025年問題として語られる職人の高齢化と離職は、私が若い頃から少しずつ積み上がってきた現実です。誰かが声を上げなければ、この業界は本当に崩れていく。
50代という年齢で大きな賭けに出ることは、簡単な決断ではありませんでした。しかし私には、40年間現場と経営の両方を見てきた経験という、IT出身者には持ちえない強みがありました。そこに東京大学松尾研究室のAI技術をかけ合わせれば、現場の言葉で語れるツールが作れると確信しました。それが、SUMITSUBO AI創業の原点です。
- 創業者の経歴
- 創業70年の工務店出身。大林組にて大規模プロジェクトに従事。建設業界歴40年。
- 創業の契機
- 建設DXツールへの現場目線での問題意識。50代での起業。
- 技術基盤
- 東京大学松尾研究室のAI技術との連携。
- 対象とする課題
- 職人・中小工務店・元請けが抱える、IT化の恩恵を受けられていない現場の構造問題。
作っているのはツールではなく、武器だと思っている
私たちが目指しているのは、単なる業務効率化ではありません。職人が職人らしく、誇りを持って働ける環境を取り戻すことです。「ITなんて分からねぇよ」と言っていたベテランが、実際に触れて「これなら使えるな」と言う。その瞬間のためにこの会社を作りました。
もちろん、AIが万能だとは思っていません。導入すれば即座に現場が変わるという幻想は、私自身がDXの失敗例を何度も見てきたから持っていません。技術は手段であり、現場の人間の判断を補うものです。ここを外すと、どれほど優れたAIでも「使われないツール」になる。それが、私が40年で学んだ最大の教訓です。
- 実際の作業フローに即した機能設計ができる
- 職人・現場監督が直感的に使えるUIを優先できる
- 「使われないまま終わる」リスクを事前に排除しやすい
- 技術トレンドの変化に追いきれないリスクがある
- 現場感覚が先行し、スケーラビリティの設計が後回しになることがある
- 「自分が正しい」という確信が、外部意見の吸収を妨げる場合がある
建設業の未来をあきらめていない
この業界は、確かに厳しい状況にあります。職人の高齢化、担い手不足、下請け構造の固定化。どれも一朝一夕に解決できる問題ではありません。しかし私は、建設業が「オワコン」だとは一度も思っていません。建物が存在する限り、人が建てる技術の価値は消えません。
必要なのは、現場を知る人間が技術と向き合い、使える形に変えていくことです。40年間、私はその「現場を知る側」にいました。だからこそ今、「技術を作る側」に立てると判断しました。この会社が目指すのは、建設業界で働く人が「やっていてよかった」と思える仕事環境を増やすことです。それが、私にできる唯一の恩返しだと考えています。