ホームコラム現場・技術
現場・技術

「背中を見て盗め」が通じない現場で、3日以内の離職を減らした指導の言葉

— min read

「あいつ、今日も来ていないのか」。採用してから3日も経たないうちに、現場へ顔を出さなくなる若手がいる。その度に「根性がない」と片付けてきたが、あるとき私はふと思った。果たして、自分は彼らに仕事の「意味」をちゃんと伝えていただろうか。この問いが、私の指導のやり方を変えるきっかけになった。

「あれ持ってこい」が新人を止める

配管の締め付け作業をしていた午前中のことだ。「おい、300のパイレン」と声をかけたら、新人がきょとんとした顔でその場に立ち尽くした。私には頭の中に図面も道具の配置もある。だが入って間もない彼には、パイレンが何か、300というサイズが何を意味するか、そもそも今なぜその道具が必要なのか、何ひとつ文脈がない。

試しにその日から言い方を変えた。「この配管を締め込みたいから、300mmのパイプレンチを持ってきてくれ」。一文が長くなるだけで、彼の動きが変わった。道具を取りに行く足が迷わなくなり、翌日には自分から「配管を締める時はパイプレンチですか」と確認してくるようになった。目的(なぜ)を言葉に乗せるだけで、新人は自分で考え始める。親方が無意識に省いていた「理由」こそが、新人に最も必要な情報だった。

指示に「なぜ」を添える、3つの言い換え例
  • 「300のパイレン」→「この配管を締めたいから300mmのパイプレンチを」
  • 「養生しとけ」→「仕上げ面に傷がつかないよう、床を養生テープで覆っておいて」
  • 「水止めろ」→「これ以上進めると漏れるから、止水栓を閉めてくれ」

怒鳴ると、ミスが隠れる現場になる

今の20代は、SNS世代特有の「失敗して恥をかくことへの恐怖」が強い世代だ。昭和の現場では「怒られたら悔しくて次は頑張る」という反応が多かった。しかし今は違う。怒鳴られた瞬間に「怖い、逃げたい」という回路が先に動く。叱責が動機付けにならないのは、根性の話ではなく、育ってきた環境の違いだと私は理解することにした。

問題は、恐怖で支配すると彼らがミスを隠すようになることだ。ある現場で、新人が塩ビ管の接続を一箇所誤ったまま報告しなかった。気づいたのは引き渡し直前で、やり直しに丸一日かかった。彼に「なぜ言わなかった」と聞くと、「怒られると思って」と小声で答えた。隠蔽こそが最大のリスクだ。それ以来、私はミスの報告があった時に「よく言いに来た」と一言添えるようにした。翌週には別の新人も自分からミスを報告してきた。

自分の失敗談を話すのも有効だ。「私も20代の頃、継手の向きを逆に付けて親方にこっぴどく怒られた」と話すと、新人の表情が柔らかくなる。「先輩でも失敗するんだ」という安心感が、報告・連絡・相談の土台を作る。この土台がなければ、どんな技術指導も機能しない。

褒める時は「人」ではなく「行動」を見る

「お前はセンスがあるな」という褒め方を、私はある時期からやめた。センスを褒めると、次に失敗した時に「自分はセンスがなかったのか」とプレッシャーになる。心理学の研究でも、能力を褒めるより行動を褒める方が継続的な意欲につながるとされている。現場での実感も同じだった。

具体的には「朝、作業エリアの隅まで掃除してあったな。ありがとう」「さっきの塩ビの切断、断面が真っ直ぐ出ていたぞ」という言い方にした。抽象的な評価ではなく、自分が見ていたという事実を伝えること。新人にとって「ちゃんと見てくれている」という実感が、3日目・1週間目の壁を越える大きな力になる。

「人を育てるのは才能じゃない。習慣だ」――ある現場監督が研修で言っていた言葉で、今も手帳に書いてある。

ただし、落とし穴もある。行動を褒めることを意識しすぎて、毎回の作業に過剰なフィードバックをする親方がいる。新人が「褒められないと動けない」体質になると、逆に自立が遅れる。褒めるのは本当に気づいた時だけでいい。「見ている」ことを伝える頻度と、本人が自分で考える余白のバランスが、指導者の腕の見せどころだ。

「翻訳型」指導が機能する理由と限界

ここまで紹介した指導の考え方を、私は「翻訳型」と呼んでいる。ベテランが当たり前に持っている文脈・経験・感覚を、新人にも分かる言葉に変換して渡す、という意味だ。昭和の「見て盗め」は、師匠の技術が本物であれば有効だった。ただしそれは、新人が「盗む気で見る技術」をすでに持っていることが前提だ。今の若手の多くは、そもそも何を見ればいいのかが分からない状態で現場に入ってくる。

翻訳型指導のメリット
  • 新人が「なぜ」を理解してから動くため、応用が利きやすい
  • 失敗を報告しやすい雰囲気が生まれ、隠蔽リスクが下がる
  • 指導者自身が「なぜそうするか」を言語化することで、技術の棚卸しになる
デメリット・注意点
  • 一つひとつ説明する手間がかかり、忙しい繁忙期には続けにくい
  • 褒めすぎると自立が遅れ、指示待ちの新人を作る可能性がある
  • 言葉で説明できない感覚的な技術(墨出しの目の慣れ、接着剤の塗り加減など)は、最終的に「見て覚える」しかない部分も残る

どんな指導法にも万能はない。翻訳型で土台を作りながら、感覚的な技術は「見せて、やらせて、また見る」というサイクルを回す。この組み合わせが、今の現場では現実的に機能している。

まとめ:育てる手間は、将来の右腕への先行投資

「目的をセットで伝える」「失敗を報告できる空気を作る」「行動を具体的に認める」。この3つは、特別な研修を受けなくても、明日の朝礼から試せることばかりだ。いちいち言葉にするのは面倒に感じる。しかしその手間が積み重なった先に、「この現場なら働き続けられる」と思う若手が残っていく。

3日で辞められるより、3年かけて育てた方が会社にとっての損益は明らかだ。「俺たちの時代とは違う」と割り切り、彼らの言語で話しかけることが、令和の職長に求められる技術の一つだと私は思っている。

S
株式会社SUMITSUBO AI
Construction × AI

建設業界40年のナレッジ × 東大松尾研究室発のAI開発力。積算DX・図面解析・AI教育(KEN-CUBE)まで、現場の本質的な課題を受託開発で解決するAIソリューションカンパニーです。

サービスを見る →

現場の学びを、次の一歩に

若手育成や現場のノウハウは KEN-CUBE で。ちょっとした相談は公式LINEから気軽にどうぞ。

LINEで相談 KEN-CUBE