現場の「泥臭いリアル」が教材になる。職人技を買い取る理由
ある配管の改修現場で、入って半年の若手が手を止めて私に聞いてきたことがあります。「錆びて全然回らないんですけど、どうやって外すんですか」。私は無意識にパイレンの角度を変えて、体重のかけ方をほんの少し調整しながら外しました。「こうするんだよ」と言いながらやってみせても、彼の表情は「分かったような、分からないような」でした。言葉にしにくい、でも確実に存在する技術。それが現場に何十年と眠り続けている「暗黙知」の正体です。
現場の技術が言葉にならずに消えていく
建設業界の現場では今、深刻な「指導者不足」が続いています。若手は入ってくる。しかし、丁寧に教えられるベテランが絶対的に足りない。時間がないのか、言語化が難しいのか、あるいはその両方か。結果として、長年かけて磨かれた技術が、退職とともにそのまま消えていくケースが後を絶ちません。
「パイレンの角度」「シールテープを巻くスピード」「狭い場所での体の入れ方」。これらは教科書には載っていません。マニュアルを作ろうとしても、文字では伝わりきらない部分が必ずある。現場の感覚は、現場の動きの中にしかないのです。だからこそ、動画という形での記録が、今これほど重視されるようになっています。
「上手い施工」よりも「リアルな現場」が求められる理由
「自分より上手い職人はたくさんいるから」と躊躇する人が多いのですが、それは少し的外れな心配です。SUMITSUBO AIが必要としているのは、模範演技のような綺麗な施工映像ではありません。若手が本当に困る場面、つまり「想定外」の瞬間を記録したリアルな映像です。
- 錆びついて回らないボルトを、実際にどう外したか
- 図面と現場の納まりが違ったとき、どう対処したか
- 失敗したとき、どうリカバリーしたか
これから現場に出る若手が知りたいのは、「理想の手順」ではなく「壁にぶつかったときの判断と動き」です。ベテランが無意識にやっている「トラブル対処の体の動き」こそが、AIに学習させる教師データとして最も価値を持ちます。あなたの10秒の動画が、若手には数時間の口頭指導より伝わることがあります。
職人の技術を「資産」として評価する仕組み
SUMITSUBO AIが進める「ワザ買取(Waza-Kaitori)」は、職人が現場で撮影した作業動画を正当な価格で買い取り、AI学習データとして活用するプロジェクトです。体を酷使して夜間のアルバイトをする必要はありません。日中の現場で面白い場面に出会ったとき、スマホを回すだけでいい。
ここで正直に書いておくべき点もあります。撮影する内容や環境によって査定額は変わりますし、すべての動画が高値になるわけではありません。また、現場によっては撮影に会社や施主の許可が必要な場合もあります。「何でも撮れば売れる」という話ではないことは、最初に理解しておいてください。
- 日常の作業がそのまま収入に変わる可能性がある
- 自分の技術が記録・評価されることで可視化される
- 次世代への技術継承に直接貢献できる
- 撮影前に現場・会社の許可確認が必要な場合がある
- 映像の内容・品質によって査定額に差が出る
- 個人情報や機密情報が映り込まないよう注意が必要
暗黙知が「次の現場」を助ける
私が長年現場を歩いて感じてきたのは、職人の技術は本人が思っている以上に固有で、代替が利かないということです。同じ工具を使っても、同じ手順を踏んでも、出来上がりが違う。その差は、積み重なった経験の中の小さな判断の連続から生まれます。
その判断の積み重ねを、映像という形で残すことができれば、それは個人の「消耗品」ではなく「資産」になります。退職した後も、現場を離れた後も、誰かの役に立ち続ける。
「職人の技術は、その人が現役のうちにしか記録できない。」
これはSUMITSUBO AI代表・軽部修の言葉ですが、現場に長くいた人間なら実感を持って頷ける話だと思います。ベテランが当然のようにやっていることを、若手は「どうしてそうするのか」すら分からないまま見ているケースが多い。その「なぜ」の部分を丁寧に拾い上げていくことが、このプロジェクトの核心にあります。
まとめ:技術を持ち腐れにしない選択
毎日の現場で当たり前にやっていることが、実は教材としての価値を持っているかもしれない。そのことを知っているかどうかで、今後の選択肢は変わってきます。撮影の許可を確認し、現場の「リアルな場面」をスマホで記録することから始めてみてください。きれいに仕上がった瞬間よりも、ちょっとした工夫や判断の瞬間の方が、価値を持つことが多いです。あなたの現場の経験は、誰かの現場で確実に生きます。