排水管の「通気」は換気じゃない。水を守る「ストローの原理(サイフォン)」と負圧の話
「新築なのに、洗面所がなんか下水臭い……」
引き渡し後にこんなクレームが来たら、真っ先に疑うべきは「通気管(つうきかん)」の施工不良です。
新人時代、図面を見てこう思ったことはありませんか?
「なんで排水(水)を流す管なのに、わざわざ屋根の上まで伸ばして空気を吸わせる必要があるんだ?」と。
多くの人が「管の中の臭い空気を外に逃がすため(換気)」だと思っています。
しかし、それは間違いです。通気管の本当の役割は、「トラップの水(封水)を守るため」にあるのです。
ボコボコ音は「窒息」のサイン
トイレやキッチンで大量の水を流したあと、別の場所(洗面所など)から「ボコボコッ……」という音が聞こえたら危険信号です。
あれは空気が抜けている音ではありません。
配管の中が窒息状態になり、苦し紛れにトラップの水を吸い込んでしまっている音です。
これを専門用語で「吸い出し作用(誘導サイフォン作用)」と呼びます。
ストローでわかる「負圧」の恐怖
なぜ水が吸われるのか?
この理屈は、コンビニで貰う「ストロー」を使えば一発で理解できます。
ストローを水に入れて、上を指で塞いで持ち上げると、水は落ちてきません。
これは、ストローの上部が密閉されて「負圧(真空に近い状態)」になり、水を引っ張り上げているからです。
排水管でも、まったく同じことが起きます。
縦管を一気に水が流れ落ちると、その背後(上部)の空気は持っていかれ、気圧が急激に下がります。
この時、もし通気管(空気の入り口)がなかったらどうなるでしょうか?
配管はどこかから空気を吸おうとします。
一番手っ取り早い空気の入り口……それが「洗面所のSトラップに溜まっている水」なのです。
「封水」が切れると、そこはただの穴
配管内の「負圧」によってトラップの水が吸い出されてしまうことを、「破封(はふう)」と言います。
SトラップやPトラップに水が溜まっているのは、下水の臭いや虫が上がってこないようにするための「蓋(ふた)」の役割です。
この水(封水)がサイフォン現象で吸い出されてなくなってしまうと、そこは「下水管と部屋が直結したただの穴」になります。
これが、「新築なのに臭い」原因の正体です。
通気管を設置しない、あるいは通気弁(ドルゴ通気弁など)が正しく機能していない現場では、水を流すたびにこの「蓋」が破壊されているのです。
⚠️ 新人がやりがちなミス
「面倒だから」と通気管を省略したり、横引き管を長くしすぎて通気が取れていなかったりするケースが多発しています。
水は「重力」だけで流れるのではありません。「空気」がスムーズに入って初めて、水は安全に流れるのです。
まとめ:空気の道を作ることが、水を制する
「通気管」とは、空気の入れ替えのためではなく、配管内が大気圧と同じになるようにバランスを取るための呼吸口です。
排水設備において、水勾配と同じくらい重要なのがこの「通気」です。
「たかが空気」と思わず、見えない圧力の変化をイメージして配管を組む。
それが、クレームを出さない一流の職人の仕事です。
「見えない部分」を可視化して教える。
サイフォン現象や負圧の仕組みも、動画なら一瞬で理解できます。
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