竣工検査で水回り不具合を見抜く—元現場監督が教える当日の動き方
引き渡しから3日後に電話が来た。「洗面台の下が濡れているんですが」。現場監督を10年やっていた私のもとに、そういう連絡は決まって検査の後にやってくる。竣工検査の日は施主も担当者も気持ちが高ぶっている。だから水回りの小さな異変を見落としやすい。引き渡し当日に指摘できるかどうかで、無償補修に至る割合は約82%から41%まで落ちる。この差が何を意味するか、検査当日の「動き方」で決まることを知っておいてほしい。
- 引き渡し後1年以内のクレーム発生率
- 約35〜40%(住宅産業研究所調査)
- クレームのうち水回り関連の割合
- 約28%(漏水・排水不良・結露など)
- 当日指摘で無償補修に至る割合
- 約82%(引き渡し後1か月超では約41%に低下)
- 施主が最も見落とす箇所
- 洗面台・キッチン下の配管接続部(目視困難)
検査当日に「動かして確認する」5つの動作
建設会社から渡されるチェックシートは、ほぼ例外なく見た目の確認に偏っている。クロスの浮き、建具の建付け、床の傷——それらも重要だが、水回りは「動かして初めて現れる不具合」が多い。私が現場監督時代に立ち会い確認として必ず実施させていたのは次の5つだ。
- 全ての蛇口を開けて30秒流す
- シンク・洗面・浴槽に水を張って一気に流す
- トイレを2回連続で流す
- シャワーヘッドを最大水量で使う
- 換気扇をONにしたまま5分放置する
この中で特に効くのが「一気に流し」だ。普段の使い方より大量の水を短時間で流すことで、排水勾配が不足している配管ではゴボゴボと音が出る。勾配の問題は目では見えない。水を動かすことでしか確認できない不具合の代表格だ。換気扇の5分放置も見落とされやすい。異音が出るのは起動直後ではなく、しばらく回し続けてからというケースが多い。ダクト内の施工くずが羽根に絡まると、最初は静かでも数分後に異音に変わる。
浴室の床は足の裏で確かめる。排水口に向かって水が流れるか、逆勾配になっていないかを体感で判断できる。目で水の動きを追うより、足の傾きで感じる方が早い。洗濯機パン周辺は手で壁際を触り、貫通部のコーキングに隙間がないかを確認する。この触診と音の確認を組み合わせることで、書類だけの検査では絶対に気づけない問題を引き渡し当日に捕まえられる。
キャビネット下を必ず開ける理由
施主が最も開け忘れるのが、キッチンシンク下と洗面台下の扉だ。竣工検査では建具の動きを確認するために一度は開けるが、配管接続部まで視線を落とす人は少ない。現場の経験では、この奥の配管継手に水滴や錆び色の染みがある場合、施工中の仮接続を本締めし忘れているケースが年に数件あった。
確認は懐中電灯かスマホのライトで行う。暗くて手元が見えない状態で「問題なさそう」と判断するのは危険だ。接続部に白い析出物がついていれば、すでに微量の水が染み出していた証拠になる。排水口の中を照らして施工くずが残っていないかも見ておきたい。引き渡し前の清掃で配管内が省略されることは珍しくない。
もう一つ見ておくべきが給湯器リモコンのエラー表示だ。通水直後にエラーコードが出ていないかを確認する。エラーが消えていても、初期通水時の記録が残るタイプのリモコンであれば履歴を呼び出して確認できる。この一手間が後の「最初から調子が悪かった」という主張を証拠として残す。
角を立てずに指摘を書面に残す方法
施主が最も躊躇するのが指摘の仕方だ。「こんなこと言ったら関係が悪くなるかも」と飲み込んでしまう人は本当に多い。だが現場監督側の本音を言えば、当日指摘してくれる施主の方がありがたい。後から「実は気になっていた」と言われる方が、工程も費用も余計にかかる。
伝え方の基本は「感情ではなく現象を言葉にすること」だ。「雑な仕事だ」ではなく「洗面台下の接続部に水滴が見えます」と事実だけ言う。スマホで撮影しながら話すと、相手に「記録されている」という意識が自然に生まれ、後の対応が速くなる。撮影は責める行為ではなく確認の手続きだと伝えれば、関係は崩れない。
- 指摘事項は引き渡し確認書か別紙に書き込んでもらい、担当者のサインを必ずもらう
- 「後で直してもらえれば」という口頭の約束は、担当者が変わった瞬間に消える
- 「洗面台の排水栓が固い」程度の小さな不具合でも、書面に残すかどうかで対応が180度変わる
指摘の言葉選びも重要だ。「欠陥じゃないですか」という問いかけは相手を防衛モードに入れる。「ここ、水が溜まっているように見えるんですが、確認していただけますか」という表現の方が、相手は素直に動く。問いかけの形にすることで、相手が自ら確認しに行く流れが生まれる。
引き渡し後に「やっぱり変だ」と感じたら即動く
引き渡しから数日後に「なんかシンクの水の引きが遅い気がする」と感じ始めるケースは珍しくない。このタイミングが最後の黄金期間だ。品確法では構造・防水部分の10年保証が有名だが、設備の軽微な不具合は概ね2年の瑕疵担保が原則になる。ただし放置すると「経年使用による劣化」と言い逃れされるリスクが高まる。
「少し変だな」と感じた瞬間に動画を撮り、施工会社に連絡する。この習慣が後の大きなトラブルを防ぐ。水回りの不具合は放置すると腐食・カビ・シロアリ被害に連鎖するリスクがある。早期発見・早期指摘が最強のコスト削減策であることは、10年間の現場経験から断言できる。
まとめ:検査当日は「確認の日」と割り切る
竣工検査は嬉しい日だ。それでも、感情を一旦脇に置いて水を流し、扉を開け、写真を撮る。この三つを実行するだけで、引き渡し後のトラブルリスクは大幅に下がる。一般的なチェックシートには載っていない「動かして確認する」視点を持つことが、施主として後悔しない唯一の方法だ。
落とし穴として覚えておいてほしいのは、「施主が確認しなかった」という事実が後の交渉で不利に働く点だ。建設会社側は「引き渡し時に問題なかった」という立場を取りやすい。当日のチェック記録と写真は、施主自身を守るための証拠でもある。検査当日の30分の手間が、引き渡し後の数か月分の交渉コストを節約する。